緑茶は、NMNの静かなパートナー
更新日:4 日前
EGCGとNAD⁺サルベージ経路をめぐる研究から見えてきたこと
TA Medical Research Team · 6 min read · Cellular Health

日本では、緑茶はあまりにも当たり前の存在です。昼食と一緒に出てきて、午後にはデスクの横に置かれ、来客があれば何も言わずとも注がれます。
ところが、細胞がエネルギーをつくり、再利用する仕組みを研究する科学者たちは、茶葉に含まれるある成分に何度も行き当たっています。そしてその発見の一部は、これまでの記事でお伝えしてきたNAD⁺と直接つながっているのです。
まずは基本から
NAD⁺はミトコンドリアのエネルギー産生やDNAの修復を支え、年齢とともに減少していきます。NMNは、体内でNAD⁺をつくるための直接の材料のひとつです。東京大学が65歳以上の男性を対象に行った試験では、NMNの摂取で血中NAD⁺が上昇し、筋力や運動機能の改善との関連が示されました。
つまりNMNは「燃料」です。けれどもエンジンには、燃料をつくり、使い、再利用する「仕組み」も必要です。そこで登場するのが緑茶です。
EGCGとは
緑茶にはカテキンと呼ばれる植物成分が豊富に含まれています。中でも最も多く、最も研究が進んでいるのがエピガロカテキンガレート、略して「EGCG」です。紅茶やウーロン茶は製造工程でカテキンの大部分が変化するため、EGCGはずっと少なくなります。摘んですぐに蒸したり炒ったりする緑茶では、カテキンがほぼそのまま残ります。

日本のデータが示していること
東北大学の研究チームによる「大崎コホート研究」は、2006年に米国医師会雑誌(JAMA)に発表されました。40〜79歳の成人40,530人を約11年間追跡したところ、緑茶を最も多く飲む人は、あらゆる原因による死亡リスクが低く、特に循環器疾患との関連がはっきりしていました。1日5杯以上飲む女性では、循環器疾患のリスクが約31%低くなっていました。紅茶やウーロン茶では同じ傾向は見られませんでした。
もうひとつ付け加えたいのは、日本では緑茶の多くが、魚、味噌汁、旬の野菜、海藻、大豆製品といった和食と一緒に楽しまれているという点です。データから緑茶の恩恵を読み解くとき、この「お茶と和食の組み合わせ」も注目したい視点のひとつです。緑茶と和食がどのように支え合っているのか。今後の研究が楽しみなテーマです。 |
細胞の中のサルベージ経路
私たちの体は、NAD⁺の大部分をゼロからつくっているわけではありません。リサイクルしているのです。細胞が修復や情報伝達のためにNAD⁺を使うたびに、「ニコチンアミド(NAM)」という副産物が残ります。細胞はこれを「サルベージ経路」と呼ばれる2段階のリサイクル・ルートに戻します。

ステップ1 | 酵素NAMPTが、ニコチンアミドをNMNに変えます。ここが最も時間のかかる「律速段階」で、加齢とともに働きが落ちていきます。 |
ステップ2 | 酵素NMNATが、NMNを新しいNAD⁺に変え、再び使える状態にします。 |
サプリメントとして摂るNMNは、ステップ1のボトルネックのすぐ後からループに入り、NAD⁺の蓄えを補う材料になります。けれども、その材料が実際に働くためには、細胞の中の仕組みが欠かせません。ここで、毎日の一杯の緑茶が興味深い存在になります。実験室での研究から、EGCGがNAD⁺をつくり、再利用する過程に関わる酵素やシグナルの一部を支える可能性が示されているのです。NMNを摂っている方にとって、これは注目したい有望なつながりと言えるでしょう。では、EGCGが支え役を果たしている可能性のある3つのポイントを見ていきましょう。
1. NMNのすぐ次のステップ
ノーベル生理学・医学賞の選考を行うスウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者たちは、EGCGがNMNAT2を活性化すると報告しています。NMNAT2は、神経細胞の中でNMNをNAD⁺に変える酵素の一種です。実験では、EGCGによって脳の神経細胞のNAD⁺が増加しました。NMNがステップ2の「材料」を届け、EGCGがステップ2を担う「酵素」のスイッチを入れる手助けをしているように見えるのです。まだ細胞レベルの初期研究ですが、驚くほどきれいにかみ合っています。
2. ボトルネックの酵素
EGCGは、細胞のエネルギーセンサーであるAMPKを活性化します。運動や空腹のときに働くのと同じスイッチです。米国国立衛生研究所(NIH)の研究者による2008年の研究では、ステップ1のボトルネック酵素NAMPTを増やすには、活性化したAMPKが必要であることが示されました。人でも運動によって筋肉のNAMPTが増え、アスリートは運動習慣のない人の約2倍を持っています。緑茶が人のNAMPTを増やすことを直接示した研究はまだないため、これは「証明された事実」ではなく「十分に考えられるつながり」です。
3. NAD⁺を使うエンジン
NAD⁺は、「長寿遺伝子」とも呼ばれるサーチュインや、ミトコンドリアを通じて働きます。2017年の『Redox Biology』の研究では、老化研究で広く使われる線虫にEGCGを与えたところ、NAD⁺が増え、新しいミトコンドリアの生成が促され、健康寿命が延びました。これらの効果はAMPKとSIRT1に依存していました。そしてサーチュインがNAD⁺を使うと、ニコチンアミドがサルベージ経路へ戻り、ループが一周するのです。
NMNが届けるもの | EGCGが支える可能性のあるもの |
NAD⁺の原材料 | NMNをNAD⁺に変えるNMNAT2(細胞実験) |
律速段階の後からループに入る | NAMPTのボトルネックに関わるAMPK |
人の臨床試験で血中NAD⁺を上昇 | SIRT1とミトコンドリアの働き(動物実験) |
燃料 | 仕組み |
脳での研究から見えてきたこと
2025年、米カリフォルニア大学アーバイン校の研究チームは学術誌『GeroScience』に、これらの考え方をほぼそのまま組み合わせた研究を発表しました。老齢マウスの脳細胞に、NAD⁺の材料にもなるニコチンアミドとEGCGを一緒に与えたところ、24時間以内に重要なエネルギー分子が若い細胞のレベルまで回復し、アミロイドを含む傷んだタンパク質を片付ける力が戻りました。シャーレの中の細胞での実験ではありますが、NAD⁺の材料とEGCGを組み合わせた研究が実際に進められていることを示しています。
意外な事実:多ければ良いわけではない
線虫の研究で、EGCGの効果は「逆U字型」の曲線を描きました。適度な量では効果があり、量を増やすとかえって効果が小さくなったのです。EGCGは細胞を成分で満たすのではなく、運動のように「穏やかで良い刺激」を与えることで働いていると考えられます。
人の安全性データも同じ方向を示しています。2018年、欧州食品安全機関(EFSA)は、伝統的な方法で淹れた緑茶は概ね安全であると結論づけました。普段の緑茶からのEGCG摂取量は1日約90〜300mgです。一方、1日800mg以上のEGCGを含む濃縮サプリメントは、肝酵素の上昇と関連していました。
実践のポイントはとてもシンプルです。高濃度のカプセルではなく、日本でずっと親しまれてきたように「飲み物として」緑茶を楽しむこと。 |
毎日のシンプルな習慣
● すでにNMNを摂っている方は、朝の一杯の緑茶と組み合わせると、無理なく続けやすい習慣になります。
● 淹れた緑茶を、1日2〜4杯ほど、できれば食事中や食後に楽しみましょう。
● 水出しよりもお湯で淹れると、カテキンがよく出ます。煎茶を1〜2分蒸らすのが、日常にはちょうど良い淹れ方です。
● カフェインで眠りが浅くなる方は、遅い時間の一杯を早めの時間に移しましょう。
● 体を動かすことも忘れずに。運動はEGCGと同じエネルギーセンサーを働かせ、人のNAMPTを増やすことが証明されています。
肝臓に持病のある方、鉄分が不足している方、妊娠中の方、日常的にお薬を服用している方は、お茶やサプリメントの習慣を変える前に医師にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医学的なアドバイスではありません。 |
まとめ
NMNはNAD⁺の燃料を届け、緑茶はNAD⁺を使い、再利用する仕組みを良い状態に保つ手助けをしているのかもしれません。この2つを組み合わせて人で検証した研究はまだありませんが、科学は一貫した方向を示しており、適量であれば安全な習慣です。次にお茶を淹れるとき、その一杯は思っている以上のことをしてくれているのかもしれません。

参考文献
1. Igarashi M, et al. Chronic NMN supplementation elevates blood NAD⁺ levels and alters muscle function in healthy older men. npj Aging, 2022.
2. Kuriyama S, et al. Green tea consumption and mortality in Japan: the Ohsaki Study. JAMA, 2006.
3. Karolinska Institutet. EGCG activates NMNAT2 and increases NAD in neurons (research summary).
4. Fulco M, et al. AMPK-mediated regulation of Nampt. Developmental Cell, 2008.
5. Costford SR, et al. Skeletal muscle NAMPT is induced by exercise in humans. American Journal of Physiology, 2010.
6. Xiong LG, et al. EGCG promotes healthy lifespan through mitohormesis in C. elegans. Redox Biology, 2017.
7. Santana RA, McWhirt JM, Brewer GJ. Treatment of age-related decreases in GTP levels restores endocytosis and autophagy. GeroScience, 2025.
8. European Food Safety Authority. Scientific opinion on the safety of green tea catechins. EFSA Journal, 2018.


