筋肉の中に眠る、小さな工場
更新日:9月27日
同じ運動なのに、年齢とともに効果が薄れていくのはなぜか——そして、その仕組みを体自身が作り直せるという驚きの発見。
TA Medical 研究チーム ・ 読了目安6分 ・ 細胞の健康と健康寿命
70代の男性が、25歳の孫と同じ朝の30分の散歩に出かけます。歩く速さも、距離も、費やす労力も同じです。けれど、二人の筋肉の中では、まったく違うことが起きています。

孫の体は、その散歩をこう受け止めます。「もっと力をつけよう、適応しよう、強くなろう」と。祖父の体にも同じ指令が届いているはずです。ただ、その努力から反応までのどこかで、指令が弱まってしまうのです。老化した筋肉を研究する専門家たちは、これを「反応の鈍化」と呼んでいます。これは気力や根気の問題ではありません。運動そのものを体がどう処理するかという、測定可能な、はっきりとした違いなのです。そしてこれは、多くの人が感覚としては知っていても、名前を知らなかったある現象を説明してくれます——なぜ、若い頃には体を変えてくれた同じ運動が、同じようには効かなくなっていくのか、ということです。
01. 運動は、体への「呼びかけ」にすぎない
運動そのものが直接あなたを強くしている、と考えがちです。けれど、厳密には少し違います。運動とは、細胞に向けた一種の「呼びかけ」——もっとミトコンドリアを作れ、組織を修復しろ、次に備えて適応しろ、という刺激なのです。実際に体が変わるのは、細胞がその呼びかけに応えた、そのあとのことです。

ここで、加齢が静かに物語を変えていきます。老化した筋肉を対象にした研究では、この呼びかけを「受け取る」役割を担う分子的な経路が、時間とともに反応しにくくなっていくことが分かっています。若い筋肉とまったく同じ運動刺激を受けても、年老いた筋肉では「適応せよ」という指令がより弱くしか届かないのです。運動が弱くなったのではありません。その呼びかけを聞き取る筋肉側の力が、弱くなっているのです。
02. その原因を突き止めた科学者
健康情報に詳しい人でさえ、ほとんど誰も知らないであろう事実があります。そしてこれは、きちんと裏付けのある、具体的な研究から導き出されたものです。

ペンシルベニア大学ペレルマン医学部の生理学者、ジョセフ・A・バウア博士は、長年NAD⁺代謝を研究してきた人物です。彼の研究チームは、学術誌『Cell Metabolism』に発表した研究で、筋肉が自らNAD⁺を作り出す能力を失ったとき、正確に何が起こるのかを突き止めました。研究チームはマウスの筋組織において、筋肉がその場でNAD⁺を作り出すために使う酵素、NAMPT(ナムト)の働きをあえて止めてみたのです。結果は劇的でした。筋肉内のNAD⁺は85%も減少し、筋繊維の変性、筋力の進行的な低下、そしてトレッドミルでの持久力の測定可能な低下が見られたのです。
これは、加齢そのものを調べた研究ではありません。ある一つの変数だけを取り出し、それが失われたときに何が起きるかを観察するために設計された研究です。そしてその結果が明らかにしたのは、筋肉が体全体のNAD⁺供給にただ依存しているだけの存在ではない、ということでした。筋肉は自分自身の「小さな工場」を稼働させているのです。その工場の生産量が落ちれば、影響は抽象的な細胞レベルの数値としてではなく、もう以前ほど走れなくなったマウスという、はっきりとした形で現れます。
03. 転機:この工場は、作り直せる
ここからが、バウア博士の発見が「問題の説明」から「本当に希望の持てる話」へと変わる部分です。
研究チームがこのマウスたちにNAD⁺の前駆体を与えたところ、筋肉全体のNAD⁺量そのものはわずかな回復にとどまったにもかかわらず、筋機能と筋肉量は急速に回復しました。同じ研究の別の部分では、生涯にわたってNAMPTの働きを高いレベルに保つよう操作されたマウスは、老年になっても筋肉のNAD⁺量と運動能力の両方を維持していました。まるで、この一点に関しては、ずっと若い個体のように年を重ねていたのです。
これとは別に、人の筋組織を対象にした研究でも、同じように心強いパターンが見つかっています。高齢者では平均してNAMPTの量は低いものの、計画的なトレーニングに対してはしっかりと反応するのです。ある研究では、12週間の有酸素運動または筋力トレーニングによって、筋組織中のNAMPT量が測定可能なほど増加しました。しかも高齢者のグループでは28〜30%の増加が見られ、若い参加者のグループを上回る結果となったのです。加齢とともに衰えていたはずのこの仕組みは、正しく刺激を与えられたとき、もっとも大きな回復力を見せたのです。

筋肉の幹細胞(サテライト細胞)に関する研究も、もう一つの手がかりを与えてくれます。加齢によってこれらの修復細胞は「動けない」状態に閉じ込められがちになりますが、運動による定期的な活性化が、これらの細胞が完全な老化状態へと滑り落ちてしまうのを防ぐ助けになるようです。次の修復に備えて、筋肉自身の「再生チーム」を維持してくれているのです。
つまり、これは一方的に衰えていくだけの仕組みではありません。使われることに、きちんと応えてくれる仕組みなのです。
04. すでにNMNを摂っている方へ
この一連の研究は、NMNによってNAD⁺を補っている方にとって、実はとても意味のある視点を与えてくれます。
バウア博士の研究、そしてそれに続く人での研究が示しているのは、筋肉自身がNAD⁺を作り出す力が、加齢とともに静かに落ちていくという事実です。つまり、継続的な運動は、NMNとは別に存在する「もう一つの健康習慣」ではなく、同じシステムの、別の部分に働きかけているということになります。NMNは、体内でNAD⁺へと変換される原料を届けます。一方、運動は、その原料を実際に作り、リサイクルし、活用するための、筋肉自身の力を取り戻す手助けをしているのです。
はっきりさせておきたいのは、NMNと計画的な運動を組み合わせたこの効果そのものは、まだ人において直接検証されたわけではないということです。けれど、その裏にある生物学的な仕組みは、すでに動物実験の中でしっかりと確認され、理解されています。だからこそ、私たちはこの先に希望を持っています。いつか人の体においても、同じような結果が示されることを、今後の臨床研究の進展とともに、楽しみに見守っていきたいと思います。
05. 衰えるだけではなく、
応えるための仕組み
「筋肉が年齢とともにNAD⁺を作る力を失っていく」と聞くと、それもまた加齢が静かに奪っていくものの一つなのだと、そのまま受け止めてしまいたくなります。けれど、もっと正確で、もっと役に立つ捉え方は、その逆です。これは、継続して使い続けることで直接応えてくれると、実際の研究で示された数少ない加齢現象の一つなのです。
そう考えると、運動そのものの意味も変わってきます。運動は、消費したカロリーや、費やした時間の記録だけではありません。一回一回のトレーニングは、あなた自身の筋肉の中にある工場への、いわば保守点検の呼びかけです。そしてその工場は、これまで研究が行われてきたどの年齢であっても、今なお、再び動き出す力を十分に持っているのです。

TA Medical 研究チーム
参考文献
本記事は、骨格筋のNAD⁺代謝、運動生理学、および加齢に関する査読付きの研究をもとに作成しています。主な参考文献は以下の通りです。
Frederick, D.W., Loro, E., Liu, L., 他 (2016).「NADホメオスタシスの喪失は骨格筋の進行性かつ可逆的な変性を招く」Cell Metabolism誌, 24(2), 269-282. PMID: 27508874.
de Guia, R.M., Agerholm, M., Nielsen, T.S., 他 (2019).「有酸素運動および筋力トレーニングは、ヒト骨格筋におけるNAD⁺サルベージ能の加齢に伴う低下を回復させる」Physiological Reports誌, 7(12), e14139. PMID: 31207144.
Chen, W., Datzkiw, D., & Rudnicki, M.A. (2020).「加齢とサテライト細胞:使うことで失わずに済む」Open Biology誌, 10(5), 200048. DOI: 10.1098/rsob.200048.
本記事は教育および情報提供のみを目的としたものであり、医学的アドバイスを意図するものではありません。新しい運動プログラムを始める前に、特に既往症がある場合は、医療専門家にご相談ください。


